2012年10月11日木曜日

これぞパリの粋!アルニス讃 -アトリエ・タイ篇-

(誂えのスポーツ・コート、Alessandra Mandelliのライラック色タブカラー・シャツ、Arnysの「アトリエ・タイ」、Mungaiのコットン・ポケットスクエア)

革の香や舶載の書に秋晴るる 龍之介

 秋もすっかり深まり、それでいて日中の陽射しがまだきついこともあり、街を闊歩するひとびとの装いにも戸惑いと期待が入り混じっているようです。僕自身はといいますと、いまさら紺碧の海を思い起こさせるリネンジャケットを着ようという気にもならないので、寒暖差をかんがえつつ秋らしさを醸せる装いをあれこれ思案する、ということになります。

(今回届いた「アトリエ・タイ」と過去のコレクション・カタログたち)

 さて、 先月の半ばごろ、3月の受注会でお願いしていたArnysの"La Cravatte d'Atelier"(直訳すると「アトリエのネクタイ」)が届いたという連絡がはいったので、引き取りにいってきました。縞柄のタイは苦手なので殆ど持っていないのですが、個人的に一番Arnysらしい色の組み合わせのものを、と考えて注文したのが今回ご紹介するネクタイ(いや、昔風にクラヴァットと呼びましょうか)です。

(ダブルフェイスのシルク・ネップを折り畳んで仕立てられている)

 
(右のポルカ・ドットのものは一年ほど使用)

 紫と緑、と一口に言ってもいろいろある訳ですが、このクラヴァットほどパリらしい粋を感じさせてくれる色調はほかにないと思います。パリらしいだけでなく、何故か日本人の色彩感覚にも自然に受け入れられるのです。それに、癖が強そうな色の組み合わせのように思えて、案外どんな装いにもすんなりとけ込んでくれる…これは、単に色合いだけの問題ではなく、やはり生地そのものの質、その紡ぎ方、織り方、そして製法(つくっているのはイタリアのF社でしょうが)に依るところが大きいのではないでしょうか。シルク・レップ(畝織りの絹地)を六つ折にして縫っただけ、芯地もなし、というシンプル極まりない構造ながら、なぜかくも他のネクタイとは異なる(凝ったつくりのものは数多あるというのに!)、控えめではあるが強烈な個性と品格を醸し出せるのか…Arnysにしか使えないダブル・フェイスのシルク・レップそのものの質の高さに瞠目せざるを得ません。Tie Your Tieで誂えた七つ折のネクタイや伝説のハーバーダシャー(紳士用品店)A.Sulkaのヴィンテージ・タイ、Don FeFe、などいろいろなクラヴァットをみてきましたが、これほど「相棒」として身近におきたくなるものは初めてです。写真からもお分かりかもしれませんが、使い込むにつれ、生地の張りやかたさが取れ、とろけるようにしなやかで柔らかくなるのが不思議です。
 
(ツィードのカントリー・コートとともに)

 Arnysという稀有なメゾンが産み出すモノには、どれにも唯一無二の魅力が詰まっています(Berlutiに買収されたこれからは未知数ですが)。けれども重衣糧という範疇で言うならば、たとえばオーセンティックなスーツよりもオフの日に着るスポーツ・コートに、その輝きを見いだしやすい。同じようなデザインや仕立てを他のメゾンが真似をしても、雰囲気や洗練具合がどこか違うのです。素材使いの特異ともいえる贅沢さも、抗いがたい魅力のひとつとして挙げなくてはなりません。たとえば上の写真のカントリー・コートなどは、繊細なシルクのキルティングとカシミヤ・ウールの裏地がツートンで間断なく張られ、表地につかわれている微妙な風合いのツィードと、よき好対照をなしています。釦ひとつ、裏地ひと張りにまで、メゾンの培ってきた伝統にもとづく矜持と美学をゆきわたらせることは、並大抵のことではない筈です。Berlutiによる買収騒ぎのことはよくわかりませんが、先人に倣い伝統を大切にする姿勢だけは貫いていただきたいものです。
 
 「右岸のHermès、左岸のArnys」とはよく知られたことばですが、僕の考えでは、Arnysのインテリジェンス溢れる遊び心とセンスはHermèsには見受けられないものです。もちろんHermèsの隙のないモノ作りの姿勢も僕は大好きです、しかしArnysの伝統の「特異さ」にもっと親しみを感じます。それはそのまま、右岸と左岸の街や暮らすひとびとの気質の差でもある、といえば、穿ち過ぎでしょうか…

(Arnysの「アトリエ・タイ」、Aubercyのギリーふうプレーントゥ・シューズ、Lindbergのアセタニウム)

  この写真は、この秋冬の装いのイメージです。Aubercyもパリが誇る素晴らしい靴屋のひとつですが、このギリーふうプレーントゥは七年ほどまえ、京都伊勢丹のアリストクラティコというお店で購いました。フレンチ・ラストを使った細身でエレガントな佇まいは、誂えの靴の良さを知ったいま見ても、美しいと思います。もともとは靴ひもの先に革タッセルがついていて、これまた粋でした。偶然ですがこの靴も、アッパーが深緑のシボ革で、ライニングが深紫です。おまけのように乗っけたアイウェアは、Lindbergというデンマークのアイウェアメーカーのものです。アセテートとチタンを組み合わせたモデルで、もはや僕の顔の一部となるほど馴染んでいます。鼈甲と深緑、深紫、案外落ち着いた、おもしろい組み合わせになりました。

 日本が誇る革小物司である岡本拓也さんの象革iPhone5カヴァーや、ジェノヴァの誂えシャツ屋Finolloのクラヴァット、ローマ教皇とアカデミー・フランセーズのホーザリィなど、ご紹介したいものはまだまだたくさんあるのですが、今回はこのあたりで…

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