2012年8月27日月曜日

夏の相棒たち

書に倦むや蜩鳴いて飯遅し 子規

 先週は僕にしてはあれやこれやと忙しく過ごしており、なかなかブログが更新できませんでした。 日中の厳しい残暑は相変わらずですが、それでも時折吹き渡る涼しい風や夜中の芳しい薫りに秋を感じずにはいられません。来る季節への期待がたかまります。

 という訳で、過ぎゆく夏の相棒たちを、すこし紹介したいとおもいます。


 夏のあいだ寄り添ってくれた愛すべきものたち…左から、シルク・リネン素材のネイヴィー・ジャケット(誂え)、エメラルドグリーンのコットン・ハンカチーフ(Mungai)、あざやかなマドラス・チェックのコットン・ボウタイ(Fine and Dandy Shop)、スーパーファイン・モンテクリスティのパナマ帽(Lanvin)。
 
 ジャケットは数年着込んで、かなりヨレていい風合いになってきました。ノッチド・ラペルに白蝶貝のふたつ釦、3パッチ・ポケットときわめて普通の仕様です。Mungaiのハンカチーフ、これは二十歳前のころ、うめだ阪急のセレクト・コーナー(カミーユ・フォルネや大峡製鞄も置いてました)で購入したもので、当時はその名前も殆ど知られていなかったおぼえがあります。ずっとしまったままでしたが、飛ぶ鳥(カモメかな、それともイソシギ?)の手刺繍も愛らしく、色合いも爽やかで気に入って、ここ数年愛用しています。マドラスのコットン・ボウタイは多色使いで一見難しそうですが、淡い色出しの鮮やかさが実にニクく、結構なんにでも合います。



 
 さて、このLanvinネームのパナマ帽とはかれこれ七年以上のつきあいになるでしょうか、イタリアにも被っていきましたし、夏の外出には欠かせないものとなっています。とても細かい編みが特徴で、繊細なのかと思いきや(湿気には弱いですが)可塑性・弾性に富んでいて、案外丈夫なのです。


 相当酷使しているのでそこかしこに傷はあるものの、日焼けの程度も浅く、一生の相棒となってくれる筈です。

 

 編んでくださった方の銘入りですが、これだけではどなたなのか判別しようがありませんね…

 こうやって夏の装いを振り返ってみると、秋冬ものと違って、使い込むにつれてヨレたり疲れが目立つ素材がおおいからか、そこはかとない儚さを感じてしまいます。密に手で織られたツィードは数世代でも(殆どくたびれずに)もつでしょうが、着込んだリネンやコットンはそうはいきません。それでも、愛情を持ってこうしたものたちを用い、身につけることによって、似たような他のどれとも違う、不完全だけれどオリジナルな味わいが醸し出せるのだろうと信じています。


 
 今晩はBarbra Streisandの歌うこの名曲が聴きたくなりました。次回は、来る秋からつきあってゆくことになるものたちを紹介したいと考えています。
 

2012年8月20日月曜日

ファドのある朝

よべの月よかりしけふの残暑かな 虚子

 相変わらずの厳しい残暑、ですね。スコール様の土砂降りになったり、あおさが目に染みる空の高さをみせてくれたり、不思議な季節です。

 夏の終わりを感じた折、ふと聴きたくなるのがファドです。うつろいゆくものへの愛惜は、どことなく日本人の感性に近いように感じます。

 今日はポルトガルの唄い手Maria Joãoの"Fado Do Coraçao Errante"をえらんでみました。伝統的なファドの様式美を踏襲しながらも(Ricardo Rochaのポルトガル・ギターの素晴らしさ!)もともとジャズ・シンガーとしてキャリアを始めた彼女にしかできない歌唱、素晴らしいと思います。 なにより、自分が生まれ育った国の産んだファドという音楽文化に対する、心からの感謝と敬畏がありありと伝わってきます。




 この曲が入っている1996年のアルバム"Fabula"は他のどの曲も素敵なのですが、それはKai Eckhardt de CamargoとManu Katcheのリズム隊のおかげかも知れません。伝統に則ったところからのみ真の革新がうまれる、音楽も装いも同じようです。

2012年8月18日土曜日

送り火のあとに -晩夏から秋にかけての「かほり」-


大文字木を焚く火とは思はれず 誓子

 気づけば立秋はとうに過ぎ、五山の送り火も済んでしまいました。京都の学校に通っていたころはあまりにも身近だったので(学校のそばにの字が綺麗に見えるポイントがありました)意識することもなかったのですが、京都とすこし縁遠くなってからは、八月半ばになると却って気になりだすようになりました。
 
 考えてみれば、送り火の前後からたしかに古都でも夜風は涼しくなり、季節が既に秋を迎える準備をしているようです。とはいえ日中の残暑は厳しく、そのなんとも宙ぶらりんな時期を愉しむのも日本人ならではの風流ではなかろうかと思っています。空気が少しずつ爽やかになってゆくのを感じ、漂ってくる「かほり」を嗅ぎ分ける…大切にしたい感性ですね。

 さて、秋の花の「かほり」といえば、金木犀(僕はどちらかといえば木犀の控えめな芳しさを愛していますが)ではないでしょうか。この花の薫りを好むのは日本人だけではないとみえ、(もともと金木犀が存在しなかった)フランスやイタリアのフレグランスにも"osmanthus"が調香されているものが散見されます。天然の精油はとても貴重で高価なのだそうです。ということは殆どが合成香料をつかって再現している薫りなのでしょうか。

 そうしたいくつかある金木犀系のフレグランスについて考えていたら、Oliver & Co."Vetiverus 11-11-11"というオードトワレを思い出しました。昨年買い逃してちょっと悔しい思いをしたのです。名前からしてベチバーの薫りが中心なのかと思いきや、レヴューされている方によると、金木犀の貴重な精油をたっぷりつかっており、ワイルドな(!)金木犀を存分に愉しめるとのこと。それを知った時には、限定11個は既に完売してしまっていました。

 その代わりに購入したのが、"M.O.U.S.S.E"です(冒頭写真の左端)。 これも133個の限定品で、僕のものは41番目なんだそうです。箱にかいてある調香を見ると、サンダルウッド、イソイースーパー、オークモス、ラヴェンダー・アブソリュート、クローヴ、アルデヒド、フレッシュ・ライム、となっています。ラヴェンダーもオークモスもサンダルウッドも大好きな僕にはぴったりの、アンバー・ラヴェンダー調の上品な薫りです。持続時間がちょっと短く感じますが、どの季節にも合うため、愛用しています。

 残暑厳しくなってから、想い出したようにまたつかいだしたのが、Santa Maria Novella(以下S.M.N)の"Marescialla"です(冒頭写真の真ん中)。これは相当マニアックなオーデコロンだとおもいます。マチス、ナツメグなどが中心のクセの強い薬草香で、単独で嗅ぐと強烈なのですが、肌馴染みが抜群で、汗をかいたら控えめに甘く薫り立つように変貌するのですから面白いものです。もしかしたら僕の体質に合っているのかもしれません。

 冒頭写真の右端にうつっているParfums D'Orsayの"Le Dandy"は、真夏にはちょっとトップノートがきつすぎる感じがして敬遠していましたが、秋から春にかけての最高のお気に入りフレグランスです。僕の所有しているのは調香が変わる前の200mlボトルで、ミドル〜ベースノートのサンダルウッドの秘めやかな薫りがとても愛おしいのです。会社の名前に冠されているドルセー伯は19世紀フランスに於けるダンディとして有名ですが、シグネチャーだったといわれるターコイズ色のサテン・クラバットよりなにより、僕は彼の墓に興味があります。そういえばドルセー伯のまともな評伝も数年前に出ていましたっけ…

 そうそう、せっかくドルセー伯の名前が出てきたので、ボゥ・ブランメル(久生十蘭は「西洋丹次郎」と訳していて可笑しかったです)以降のダンディ列伝もいつかこのブログで書きたいな、と考えています。モーリス・ラヴェル、ロベール・ド・モンテスキュウ、ボニ・ド・カステラーネ、バニー・ロジャー、ジャック・ド・バシェア、そして我が国の薩摩次郎八、西竹一…いつか、いつか…