2012年8月18日土曜日

送り火のあとに -晩夏から秋にかけての「かほり」-


大文字木を焚く火とは思はれず 誓子

 気づけば立秋はとうに過ぎ、五山の送り火も済んでしまいました。京都の学校に通っていたころはあまりにも身近だったので(学校のそばにの字が綺麗に見えるポイントがありました)意識することもなかったのですが、京都とすこし縁遠くなってからは、八月半ばになると却って気になりだすようになりました。
 
 考えてみれば、送り火の前後からたしかに古都でも夜風は涼しくなり、季節が既に秋を迎える準備をしているようです。とはいえ日中の残暑は厳しく、そのなんとも宙ぶらりんな時期を愉しむのも日本人ならではの風流ではなかろうかと思っています。空気が少しずつ爽やかになってゆくのを感じ、漂ってくる「かほり」を嗅ぎ分ける…大切にしたい感性ですね。

 さて、秋の花の「かほり」といえば、金木犀(僕はどちらかといえば木犀の控えめな芳しさを愛していますが)ではないでしょうか。この花の薫りを好むのは日本人だけではないとみえ、(もともと金木犀が存在しなかった)フランスやイタリアのフレグランスにも"osmanthus"が調香されているものが散見されます。天然の精油はとても貴重で高価なのだそうです。ということは殆どが合成香料をつかって再現している薫りなのでしょうか。

 そうしたいくつかある金木犀系のフレグランスについて考えていたら、Oliver & Co."Vetiverus 11-11-11"というオードトワレを思い出しました。昨年買い逃してちょっと悔しい思いをしたのです。名前からしてベチバーの薫りが中心なのかと思いきや、レヴューされている方によると、金木犀の貴重な精油をたっぷりつかっており、ワイルドな(!)金木犀を存分に愉しめるとのこと。それを知った時には、限定11個は既に完売してしまっていました。

 その代わりに購入したのが、"M.O.U.S.S.E"です(冒頭写真の左端)。 これも133個の限定品で、僕のものは41番目なんだそうです。箱にかいてある調香を見ると、サンダルウッド、イソイースーパー、オークモス、ラヴェンダー・アブソリュート、クローヴ、アルデヒド、フレッシュ・ライム、となっています。ラヴェンダーもオークモスもサンダルウッドも大好きな僕にはぴったりの、アンバー・ラヴェンダー調の上品な薫りです。持続時間がちょっと短く感じますが、どの季節にも合うため、愛用しています。

 残暑厳しくなってから、想い出したようにまたつかいだしたのが、Santa Maria Novella(以下S.M.N)の"Marescialla"です(冒頭写真の真ん中)。これは相当マニアックなオーデコロンだとおもいます。マチス、ナツメグなどが中心のクセの強い薬草香で、単独で嗅ぐと強烈なのですが、肌馴染みが抜群で、汗をかいたら控えめに甘く薫り立つように変貌するのですから面白いものです。もしかしたら僕の体質に合っているのかもしれません。

 冒頭写真の右端にうつっているParfums D'Orsayの"Le Dandy"は、真夏にはちょっとトップノートがきつすぎる感じがして敬遠していましたが、秋から春にかけての最高のお気に入りフレグランスです。僕の所有しているのは調香が変わる前の200mlボトルで、ミドル〜ベースノートのサンダルウッドの秘めやかな薫りがとても愛おしいのです。会社の名前に冠されているドルセー伯は19世紀フランスに於けるダンディとして有名ですが、シグネチャーだったといわれるターコイズ色のサテン・クラバットよりなにより、僕は彼の墓に興味があります。そういえばドルセー伯のまともな評伝も数年前に出ていましたっけ…

 そうそう、せっかくドルセー伯の名前が出てきたので、ボゥ・ブランメル(久生十蘭は「西洋丹次郎」と訳していて可笑しかったです)以降のダンディ列伝もいつかこのブログで書きたいな、と考えています。モーリス・ラヴェル、ロベール・ド・モンテスキュウ、ボニ・ド・カステラーネ、バニー・ロジャー、ジャック・ド・バシェア、そして我が国の薩摩次郎八、西竹一…いつか、いつか…

2 件のコメント:

  1. 夕立があると夏の終わりと微かな秋の訪れを感じますね。だんだんと爽やかな空気とともにほんのりと香る秋のかほりを楽しむ感性は日本人ならではなのかもしれません。ところで、決して前に出すぎない…それでいて存在感のある木犀の花とかほりは私も大好きです。

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  2. 藤井さん、空気に含まれる微かな薫りのうつろいを感じ取り、それで季節を知る…繊細な感性です。

    秋きぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる 藤原敏行

    この古歌が思い起こされます。

    木犀の控えめな良さ、わかってくださって嬉しいです。

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