2014年4月8日火曜日

ぬののかんばせ 弐 -a face of the textile 2-


Vintage Swiss Silk Scarf made by A. Sulka & Company, NY (sine anno)

 「ひさかたの 光のどけき 春の日に しづごころなく 花の散るらむ」とは紀友則の名歌ですが、その心境を味わうにふさわしい、穏やかな春の日がこのところ西国では続いております。その盛りはほんのひと時のことで、潔く儚く散ってゆく櫻の花をじっと眺めていると、不思議な憧憬がわいてきます。

 春の色と一口に言いましても、ひとによって様々な色を想い起こされるでしょうが、「櫻の時季」に限定するとすれば、やはり櫻色を於いてほかにないと思います。日本の古色名でいう「櫻色」はかなり淡いピンクなので、そのものズバリという色合いのものがワードローブにはなかった、「櫻の時季」から「初夏」に軽やかに纏いたくなるスカーフなら見つけることができました。


 前回の「ぬののかんばせ」と同じくスイスシルクを用いた、A. Sulka & Companyのヴィンテージハンドプリントスカーフです。制作年代はわかりませんが、特徴として挙げられるのは、crêpe de Chineという平織りの縮緬のような素材を用いていること、ピンクと青の色出し(赤味のつよいピンクと濃い空色のブルー)がむかしのスイス独特のものであること、描かれているモティーフが所謂コロニアル(植民地)調であること、といったところでしょうか。


 このスカーフと出逢ったとき、生地と色合いと柄が三位一体となって醸し出す色気に溜め息がもれました。縁かがりの繊細さも現在のスカーフにはなかなか見いだすことが難しいのですが、何よりも全体から発散している品格には敵わないものを感じました。


 独特の筆遣いで描かれた、コロニアルな柄…ムガル帝国時代のインドが舞台なのか、象や馬に乗ったマハラジャや貴族たちが散歩しているさまが、すこし漫画チックに表現されています。スカーフ中央部にはひとびとの生活の様子がちいさく描かれ、薄紅と薄群青の絶妙の配分と対比が、じつに美しいのです。



 実際の色合いをお伝えできないのが残念ですが(ピンクもブルーもずっと鮮やかです)、こうした古の逸品をご紹介することによって、受け継がれてきた(筈の)色彩感覚や感性といったものを偲ぶよすがとなれば、幸いに思います。

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